05.09.20:32
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11.27.16:51
小説
図書館から借りた本に栞が挟まっていた。
真っ黒な栞。
手に取れば、ばらばらと黒いものが床に落ちた。
見れば、それは無数の文字たち。
床に落ちた文字たちは、やがてさらりと溶けて消えた。
栞は真っ白になっていた。
「あぁ、たまにあるのです」
図書館にて、司書はそう言って笑った。
「長い間挟んでいると、言葉が栞に移るのです」
口から出る言葉と同じで、空気に触れれば溶けて消える。
何の影響もありませんよ、との事だ。
私は白い栞をまた本に挟み、図書館へと返却したのだった。
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11.27.10:35
小説
森の中、少女の生首が地面に植わっていた。
瞳を閉じ、まどろむように。淡く色づいた唇の端には笑みが刻まれ、とびきりの夢を見ているような少女。
おかっぱ頭の少女は、森の中、首から下を地面に埋められていた。
男は少女の生首の横に立つ。
肩に担いでいたスコップを下ろし、その先端で少女の生首を示す。
「まぁ今の世の中、こっちの方が効率良いって事です」
そして無遠慮に少女の頭をスコップで小突いたのだ。
その衝撃に、少女はゆっくりと瞼を開いた。
まだ寝ぼけた様子で、自分の周囲をゆるりと見回す。
少女は私を見た。
黒目がちの瞳が、私をじっと見る。
何か言いたげに唇が動き、しかしそれは言葉にならず。
少女は代わりに唇に笑みを与えた。
白い歯を僅かに覗かせて、笑ったのだ。
「――さて、と」
男が言う。
スコップを少女の首の間際に刺す。
待ってくれ、と言う私の声に、ちらりとこちらを見る。
その瞳は呆れの色を浮かべていた。
「これは、“こういうもの”なんです」
男はそう言うと、少女の首を切断するように、斜めにスコップを差し込んだのだ。
少女は私を見ていた。
笑みは消え、ぱくぱくと口が動く。
怯えの表情。
唇が綴る言葉は、たすけて、に思えた。
一歩踏み出しかけた私を、男は視線で封じる。
「仕事の邪魔です」
私は足を止め、男の手は動き。
少女の首は、地面から掘り出された。
少女は大きく唇を開き、最後に高く高く、悲鳴を上げた。
その悲鳴は、原種と違ってたいした効果を持たない。
私と男の鼓膜を震わせ、顔を顰めさせるのがせいいっぱいだ。
少女の首の下――地面に植わっていた部分は、血管のように根っこが生えていた。
少女は、植物だった。
マンドラゴラ。そう呼ばれる植物の亜種である。
地面の下に、人とそっくりな姿を持つ原種とは違い、この国に育つ亜種は地面の上に生首を生やす。
だいたいはかわいらしい少女の顔で人を惑わし、養分とする。
その代わり、命を奪う最期の悲鳴を、この亜種は失っていた。
そうとは知っていたけれど。
私を見て微笑む少女は、植物だと言う事を忘れてしまうほど愛らしく。
それは男の手が少女の髪を掴み、持ち上げる今も変わらなかった。
男は少女の首の切断面を見やる。
「なかなか上質ですよ。良い値で売れそうだ」
そう言い、男は少女の首を渡してきた。
ずっしりと。
重さまで人の頭部に等しく。
私は両手で少女の首を持ち、しばし眺める。
苦しげに寄せられた眉。うっすら開いた瞳。閉じ損ねたような唇からは歯が覗く。
「死に際まで上手でしょう」
男はからから笑うと私を促した。
私はようやく頷き、少女を持っていた袋に押し込む。
この森にはまだマンドラゴラの亜種が育っている。
それを刈り取る仕事なのだ。
男の後ろを歩きながら、私はずっとずっと、袋の中の少女を思っていたのだ。
11.27.09:20
小説
流星群の夜は、星が落ちる音がすると、少女は言うのだ。
星が流れたとはしゃぐ人々の声を背景に、座る少女は私を見上げる。
「お静かに」
人差し指を一本、己の唇に当てて微笑む。
「静かにしてないと、聞きそびれちゃいますよ」
「星が落ちる音とやらをか?」
「はい」
少女は満足そうに頷いた。
街の明かりは遠く遠く。
はしゃぐ人々の声も遠く遠く。
少女は瞳を閉じて、空を仰ぐ。
「ほら、聴こえる」
私は耳を澄ます。
はしゃぐ人々の声。
車の駆動音。
時たま響く遠くの街の音。
私の耳は星の落ちる音を捉えない。
しかし少女は瞳を閉じ、空を仰ぐ。
その柔らかい笑みに、嘘は無いように思えるのだ。
それから私は、星が流れる夜には空を見上げる。
瞳を閉じ、私の耳がその音を捉える瞬間を、待ちわびている。